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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)531号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井原邦雄、同長尾憲治の上告理由について。

株式会社の募集設立の場合につき、商法並びに非訟事件手続法中には、株金の払込は銀行又は信託会社に限つて取扱わせ(商法一七五条二項一〇号、一七七条二項)、その変更又は払込金の保管替には裁判所の許可を得ることを要求し(同法一七八条)、払込取扱銀行等に払込金保管証明の義務を負わせる(同法一八九条一項)とともに、設立登記申請書の添付書類として払込金の保管証明書を要求する(非訟事件手続法一八七条二項一〇号)規定が設けられ、しかも、商法一八九条二項は、払込取扱銀行等はその証明した払込金額について払込のなかつたこと又はその返還に関する制限をもつて会社に対抗することができない旨規定しているのである。

これらの規定の趣旨が、払込につきその確実と健全を期し、会社をして取扱銀行等が証明した払込金額を完全に収受せしめ、もつて設立の安固と資本の充実をはかるにあることは疑がない。右の趣旨、特に前記商法一八九条の規定より考え、且つ会社成立前に払込金を使用できる旨の特別な規定のないことに徴すれば、株金払込取扱銀行等は、その証明した払込金額を、会社成立の時まで保管してこれを会社に引渡すべきものであつて、従つて、会社成立前において発起人又は取締役に払込金を返還しても、その後成立した会社に対し払込金返還をもつて対抗できないと解するのが相当である。

されば、右と同旨の判断に基いて、上告人の払込金弁済の抗弁を排斥した原判決は、原審確定事実のもとでは、もとより正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は独自の見解に立脚するものであつて、すべて採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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